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50過ぎての映画「ベニスに死す」鑑賞〜氏育ちと世間知と

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    JUGEMテーマ:洋画

     

    今回、映画館のスクリーンでダーク・ボガート演じるアシェンバッハを見た第一印象というのが、

     

    「こいつは中年過ぎの引きこもりか?」

     

    というものでした。

    何それ?とか言われそうですが、実は私のパート先の工場に、引きこもりだったと思われる、中年以上の年齢の人が入って来ることが、よくあるんですね。

    そういう人達によくある、オドオドしながらもプライドの高い独特の雰囲気に、ダーク・ボガード演じるアシェンバッハは、よく似ているような気がしたんです。

     

    友人の音楽家と思えるアルフレッドとの議論や口論から察するに、アシェンバッハは生まれた時から、清廉潔白とか質実剛健とかいう言葉が似合うような環境で、純粋培養されたような育ち方をしたように思えます。

    しかしながら、ストレスからの体調不良で療養するのに、スリかっぱらいが多いことで有名なイタリアの観光地をわざわざ選び、しかもアフリカからの高温多湿な季節風が吹く時期に行ってしまうわ、知らない土地では生水生ものは口にするな、とよく言われていた時代に、浜辺で観光客向けに、多分高額で売っていた生もののイチゴを買って口にするわと、一般人にとっては当たり前な、生活の知恵の類いは全然身についていない様子です。

    原作のトーマス・マンによる短編では、アシェンバッハは当時ベニスに蔓延していたコレラで亡くなったことになっていますが、今の私の年齢でこの映画を観ると、そうだとすればアシェンバッハは、自分の世間知の無さに殺されたようなものだな、というような気分になって来るんですね。

    10代20代の頃には、そんな事は全然考えもしませんでしたが。

     

     


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    この映画には、原作にはないシーンが幾つか登場します。

    その中のひとつが、誰もいないホテルのホールで、タジオが右手のみで「エリーゼのために」をピアノで弾いているところに、偶々アシェンバッハが居合わせ、昔娼館に行った時のことを思い出すシーンです。

     

    居心地悪そうに待合室のソファに座るアシェンバッハ。隣には、年嵩の娼婦が座り、だらしなくビールのジョッキを傾けている。

    彼の相手をするよう女主人に声を掛けられたのは、少女娼婦エスメラルダ。

    調律の悪いアップライトピアノで、きちんと両手で「エリーゼのために」を弾きながら、アシェンバッハをピアノ越しにうかがう。髪を結い上げ、ピンクのサテンの上着を着て、顔はタジオによく似ている。

    しかしながら、彼女の粗野で行儀が悪い様子や、髪を解き、安っぽい下着姿でベッドに大股開きで横たわる様子を見て、アシェンバッハは何もせずにテーブルに金を置き、引き止めるエスメラルダの手を振り払って彼女の部屋を出て行く。

     

     


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    このシーンは何を意味するのか、色々な説がありますが、私は、

     

    「そう言えばタジオとエスメラルダは、顔だけではなく、あまり行儀が良くないところもよく似ているな。」

     

    などと思いました。

    エスメラルダは、髪を結い上げ、サテンの服を着て着飾っていても見るからにガラが悪く、一緒にいるのが辛くなる感じですが、タジオは貴族の子息で甘やかされて育ち、お行儀が良いとは言えないところがあっても粗野にはならず、優美で愛らしい。

    よく似た二人を対峙させることで、タジオの優雅さを更に際立たせているような印象を、私は持ちました。

     

    最後にはそんなタジオを、現代ならストーキングと呼ばれるような様子で、後を付け回すアシェンバッハ。

    髪を黒々と染め、顔を白塗りにして紅を差した異様な化粧をして。

     

    そんな真似をしていても、間違いなく理知的な、ダーク・ボガード演じるアシェンバッハを観るうちに、私は思ったわけです。

     

    「この作品のアシェンバッハは、美少年と恋愛したくて、滑稽な化粧と軽薄な服装をしてタジオを追いかけている訳ではなく、自分に足りないものは何だったのかをタジオとの出会いで痛感することとなり、タジオと同年代位に戻って人生やり直したいたいと痛切に思っているようだな。

    どうしたら良いのか分からずに、当時としては究極の若作りである化粧と白髪染めをして、美少年を追いかけ回さずにはいられなくなっているんだろう。

    頭の良い男性のようだから、もしこれがハッピーエンドの映画なら、やがて自分は何をすべきか悟り、年の功の知恵を駆使して、最高傑作を作り出すのだろうけど…。」

     

    化粧をしてタジオを追いかける途中、アシェンバッハは体調不良で薄汚れた路地裏に座り込んでしまう。

    原因は持病の心臓か、それとも 不用心に生ものを食べて感染したコレラなのか…。

    自分の愚かさ滑稽さに泣き笑いするアシェンバッハ…。

     

    その翌日の朝、具合が悪いのに無理をして、アシェンバッハはタジオを求めて浜辺に出る。

    タジオは、その日の午後にはポーランドに帰国する。

    そんな中、タジオより少し年上の友人ヤシュウが、砂浜に横たわるタジオに小石を投げ、取っ組み合いのケンカになると、タジオの顔を砂に押し付ける。アシェンバッハは止めようとするが、体が辛くて立ち上がることも出来ず、幼児のような泣き顔になる。

    タジオはヤシュウをはね退け、海へと向かう。

    アシェンバッハは、波打ち際の煌めきの中に立つタジオが、彼の方を振り返って、何処かを指し示してみせる美しい姿を目に焼き付けながら息絶える。

    その顔には、脂汗で崩れた白塗り化粧の上を、白髪染で真っ黒になった汗が幾筋も滴り落ちている。

    ホテルの下働きの若者にその死を発見され、アシェンバッハの遺体は担架を使うこともなく、肩と足を持たれて浜辺から担ぎ出される。

     

    何か今観ると、身につまされるような感じの終わり方でした。

     

     


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