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森茉莉「曇った硝子」読みました

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    JUGEMテーマ:読書感想文

     

    森茉莉の「曇った硝子」が安野モヨコ編「晩菊 女体についての八編」に入っていると知り、さっそく取り寄せて読みました。

    個人的な感想ですが、書いてみたいと思います。

     

    私が読んで最初に思ったことというのが、

     

    「なかなか物語の中に入っていけなくて、読み辛い」

     

    でした。

     

    確か、この「曇った硝子」は、森茉莉が室生犀星に見せたところ、

    「これでは読者が入っていけない」

    と批判され、それに森茉莉本人が、

    「実は私も入っていけないのでございます。」

    と応えた、と、「贅沢貧乏」の中のエッセイにあったと思うのですが。

     

     


    贅沢貧乏 (新潮文庫 草 174-2)

     

    初期の作品のせいか、森茉莉お得意の情景描写が、描写じゃなくて説明になっているんですね。

    だから読者が、作品に書かれた情景を頭の中に思い浮かべて陶然とすることが出来ず、

     

    「これはねっ、こうでこうでこうなの!それでこっちはねっ、こんな風でこうなってこうなのっ!それであっちはこんな具合でこんな風!わかった!?」

     

    とか、まくし立てられたような気持ちになって、思考停止してしまうような…。

     

     


    女体についての八篇 晩菊 (中公文庫)

     

    この小説の内容は、はっきり言って醜悪なものです。

    偉大な父を持つ、明治生まれの元令嬢だった一人暮らしの中年女から、前夫との間に生まれた長男と、前夫の後妻がグルになって土地と貯金を騙し取った。

    しかも長男は妻がいるのに愛人を作り、元令嬢の中年女はこの愛人と仲が良かったので、逢い引きの場として自分の部屋を提供し、2人して長男と一緒に住むことを懇願していた。

    この長男は文学者で肩書は立派でも、責任感というものがカケラもない、ヒモ体質を絵に描いたような男だった。

    前夫の後妻はこの長男を思いのままに操ることで、体面を保てるレベルの生活を営んでいた、というような。

     

     


    父の帽子・濃灰色の魚 森茉莉全集 第1巻

     

    立派な学者のパッパに

    「お茉莉は上等」

    と言われて育った日々を心の糧にしていた森茉莉にとって、かなり辛いことだったと思いますが、そういう自分の心情について、作品内では全く触れられていません。

     

     


    鴎外の子供たち―あとに残されたものの記録 (ちくま文庫)
     

     

    森鷗外の三男、森類は「鷗外の子供たち」で家族や自分についてあけすけに語り過ぎて、姉の森茉莉、小堀杏奴に絶縁されています。

    この辺の事情について、ネットで調べるとすぐに出てきます。

    個人的には、森茉莉も小堀杏奴も、妙に自分の実家を神聖視していて、見栄っ張りでうわべを取り繕うのに必死なところがあるな、とも思ったのですが。

     

     


    恋人たちの森 (新潮文庫)

     

     

    これはあくまでも私個人の思い付きなのですが、もしかしたら森茉莉は、この実子とその義母の詐欺行為と、それに引っかかってしまった間抜けな自分を美しく昇華する為に、「恋人たちの森」「日曜日には僕は行かない」「枯葉の寝床」を書いたのではないでしょうか。

     

    自分も文学者という立派な肩書を持ちたい。でもこの時代殆どの育ちの良い女性は、今の中学レベルに当たる女学校しか出して貰えず、学者にはなれない。

    だから小説の中の自分を男にする。そして、男になった自分は小説の語り手で、文学者の美丈夫である、という風に設定する。

    しゃかりきに働くような野暮な真似は嫌だから、美丈夫は親の遺産で優雅に暮らしているという設定にして、自分の長男によく似た、贅沢好きでヒモ体質で、品のある美貌の嫩い男を扶養させる。

     

    そして、「恋人たちの森」では、美丈夫の年上の愛人で、老醜に悩む中年女に美丈夫を殺させる。

    嫩者は悲しむが、すぐに元気を取り戻し、近いうちに別の寄生先を見つけそうな雰囲気の中でお話は終わる。

    最初の作品では、美丈夫は自分と同じ、見捨てられた被害者となる。

     

    「日曜日には僕は行かない」では、どっちつかずの嫩者は、美丈夫に強く言われて婚約者の女性を裏切り、その母親もやり込め、最後には婚約者の女性を死なせた共犯者となる。

     

    「枯葉の寝床」になると、他の男に肉体的に惹かれている嫩者を美丈夫が殺し、その死体を誰にも見つからない所に隠して所有し、美丈夫は最後の作品を書き上げてから後追い自殺をする。

     

    不実な裏切者の、愛する長男を所有したい。そして最後には殺してしまいたい。

    息子と共犯の、義母や妻といった卑しい女達も死なせたい。そもそも最初からそんなもの、存在しなければ良かったんだ。

     

    …というような心に秘めた願望を、森茉莉はジャン・クロード・ブリアリとアラン・ドロンの写真をモチーフに、作品として書いたのだとしたら…。

     

    森茉莉という人、自称する性格とは裏腹に、かなりネチっこい女性のような…。

    ………うーん…。


    コメント
    はじめまして。
    Rと申します。読書好きの主婦です。

    森茉莉について検索していて、こちらの記事を拝読いたしました。

    森茉莉が『実子とその義母の詐欺行為と、それに引っかかってしまった間抜けな自分を美しく昇華する為に、「恋人たちの森」「日曜日には僕は行かない」「枯葉の寝床」を書いた』という考察、上記三作を未読にも関わらず、絶対そうに違いない!と妙に納得してしまいました。
    kashkaさんの鋭い感性と文章力に脱帽です。
    作家は、作品のなかで自分のコンプレックスや欲求不満を昇華する方が多いですよね。そういう影のある作品ほど、深みや重み、人間くささが感じられて、私は好きです。

    森茉莉の作品はまだエッセイをちらほら読んだだけなのですが、不思議な魅力のある方ですね。
    他の作品も読んでみたいと思います。

    突然のコメント失礼しました。
    • 2019/06/27 9:11 PM
    Rさんはじめまして。コメントありがとうございます。

    この記事は本当に思いつきで書いたので、内容的にどうかな、という気持ちもあったので、お褒め頂き嬉しいです。

    私も森茉莉の作品は、エッセイから入りました。
    ちょっとした仕草などを長々と独特な情景描写で書き連ねて、それで作品を作り上げている、と言うか、何とも不思議な文章を書く方ですよね。
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